SE(ドア・バンッ)
樹(ビクリとして)
「ぅわっ……っどろいた、お帰りなさい貴文さん」
SE(足音・キーボード)
美月「おや? お帰りなさい貴文さん。早かった……」
SE(殴る・たおれる音)
樹「美月さん!?」
貴文「……俺は……俺は確かにこの業界じゃ新参者だし、何も知らねぇよ。けどな! やっていい事と悪いことの区別くらいわかんだよ!!」
樹「貴文さん! いきなり何するんだよ!?」
貴文「うるせぇどけ!」
樹「嫌だ! いきなり殴るなんて酷いよ!! 絶対退かないからねっ」
貴文「退かねぇならお前も……っ」
SE(走)
蘭「貴文!<倒れてる美月を見て>あっちゃあ遅かったか……」
樹「蘭兄ちゃん?」
貴文「何で来やがった、帰れ!!」
蘭「わーわーわー! 貴文ちょいタンマ! 待て待て待て!!」
貴文「うるせぇ! 俺は今からこいつをボコって市中引きずりに……」
蘭「だから待てって! 美月は違うんだって確かにこいつは俺を買った一人だけどこいつが買い占めてくれたから俺は自由になったんだよ、感謝しなきゃなんないんだって命の恩人みたいなもんなんだって!!」
貴文「だから今から俺がその礼返しをっ………え? 命の恩人?」
蘭「お前の早とちり、完璧に」
貴文「…………え?」
美月「つ〜……さすが広島を統一した暴走烈火の頭ですね。結構ききましたよ。……でもまぁ、誤解はとけましたか?<にぃっこり>」
貴文「ひっ……ひぃぃいいいっっ」
樹「大丈夫美月さん?」
美月「ええ、少しガクガクしますが……」
貴文「すみませんでした!! もう何て言ったらいいか……すみませんした!!」
蘭「ったく、おっまえその猪突猛進の性格どうにかしろよなぁ」
貴文「もとはといえばお前が紛らわしいこというから……っ」
美月「貴文さん」
貴文「はっ、はぁい何ですか美月さん<はぁと>」
美月「やっぱりちょっと痛いですね頬っぺた」
貴文「す、すみません何でもします許してくださいごめんなさいぃいっ」
美月「へぇ、何でも?」
貴文「はい!」
美月「じゃあ素っ裸になってここら一帯走って来て下さい、と言ったら?」
貴文「はい喜んで!!」
美月「バカじゃないんですか、これ以上事務所の悪評がたつことしないでもらえます?」
貴文「んな!?(てめぇが今しろって……っ)」
美月(溜め息をついて)
「樹くん、もう19時過ぎですしそろそろおうちへお帰りなさい。今日はもう何もありませんし」
樹(貴文と蘭を交互に見て)
「えっ、でも……」
美月「大丈夫。貴方が聞きたい事は明日お話ししますよ。ね?」
樹(蘭に)
「う……。だ、大丈夫、なんだよね?」
蘭「おぅ、また喧嘩始めたらこの蘭さまがこいつらに回し蹴りしてやっからよ」
樹「うん……じゃあ、お疲れ様でした」
蘭「お疲れー」
美月「お疲れ様です」
樹F.O
美月「さて、と。貴文さんにはどこまでお話しを?」
蘭「え?」
美月「僕を殴りたくなる様なお話しをしていたんでしょう?」
蘭「あー……まぁ、そのぉ」
貴文「こいつが枕で仕事取ってたって話は本当なのか? その相手にお前も含まれてたって、そうなのか?」
蘭「貴文!」
貴文「どうなんだよ」
美月「……それは社長として聞きたいのですか? それとも蘭くんの友人として?」
貴文「ダチとしてはさっき殴ったので十分だ。今からは社長として話を聞きたい」
美月「わかりました。<間を入れて>質問の答えはYesです。でもそれは蘭くんだけではない。彼がいた前事務所は所属タレントには全員にそれをさせていました。
相手は主に出資先の幹部、社長。テレビ局のプロデューサーもいました。勿論僕も立場上何人か送り込まれた事がありましたが指一本触れていない。それは断言しましょう」
貴文「悠太やトナミやシーナは?」
美月「トナミくんやシーナくんはバックがバックでしたから。彼らもそうそう手は出せなかったんでしょうね。特に神宮家を相手にするには色々と暗黙のルールがありますから」
蘭「あ、確かあれだろ。神宮雪都事件」
貴文「神宮雪都事件? 雪都って海都先輩のじいちゃんだろ」
蘭「そそ、そのじいさんを一回怒られせたテレビ局があってさ。理由は知らねぇんだけど、そのせいでそのテレビ局潰れたって話。まぁ俺らが生まれる前の話らしいけど」
貴文「は? 怒らせただけで? それ絶対嘘だろ」
美月「それがそうでもないんですよねぇ」
貴文「え……」
美月「神宮家は芸能の世界では重鎮ですからね。僕も雪都氏を扱うときは毎回気を使いますよ。まぁ詣で方を間違えなければ大丈夫です」
蘭「神社かよ」
美月「まぁそう言う訳でトナミくんとシーナくんは大丈夫だった訳です。ですが悠太くんは残念ながら……ですが」
貴文「……は?」
美月「彼の場合は自らですから。それには流石の僕には口を出す権利がありません。注意は出来ても、ね」
貴文「どういう意味だよ」
蘭「あいつが女関係にだらしないのはお前も知ってるだろ。あれ、全部相手出資先のマダム達なんだぜ」
美月「一応注意はしています。けれど本人から動くのだから僕もどうしようもないんですよ。出来る事と言えばパパラッチ記事の揉み消しと彼の体調管理くらいですか」
蘭「俺が言ったって更に反感買うだけだしな」
貴文「けどそんなん無理やりにでもやめさせなきゃ! そんなん、そんな事してまで芸能人でいたって仕方ねぇじゃねーか!!」
美月「けれど今の当事務所は彼のお陰で……と言っては変ですが運営出来てる訳です。彼だけの力ではありませんがほぼそうです」
貴文「俺はそんなん望んでねぇよ! そりゃ、確かにじいちゃんが作ったこの事務所を潰したくはないし守りたいけど! だけどそんな人身御供みたいな事っ……」
美月「では潰しますか? 今すぐ。潰しても悠太くんがその行為をやめるとは限りませんよ。この事務所がなくなっても借金は残ります。貴方が苦労するんですよ?」
貴文「協力してほしいとは言ったさ! けどこんな形でとは言ってない! 俺は言ってねぇよ!!」
美月「それでも! それがこの業界なんです。貴方がなんと言おうと、僕がなんと言おうとどうしようもない。どうも出来ないんです!」
貴文「……っ」
美月「……すみません、声を荒げてしまいましたね」
se(荒々しく立ち上がる)
貴文「明日っからの全員のスケジュールを白紙に戻せ。今後売り込みもしなくていいし、仕事も受けるな」
美月(眉根を寄せて)
「貴文さん?」
蘭「貴文?」
貴文「こいつらには仕事させんな。けど所属規定の給料は払う。借金も俺が一人でなんとかする」
美月「何を言ってるんです?」
貴文「社長命令だ。嫌なら今すぐ辞めちまえ!」
<貴文部屋から出ていく>
蘭「お、おい美月」
美月「……はぁ。謝罪する身にもなってほしいんですがね」
蘭「って今のきくつもりかよ!?」
美月「仕方ないでしょう? だって社長命令ですから。僕は雇われの身ですし逆らえないですからね」
蘭「だからって……っ」
美月「蘭くん。何故こんな事になったのか、わかっていますよね?」
蘭「っ……それは……」
美月「彼に話をしたらこうなる事は貴方も付き合いが長いならわかっていたでしょう」
蘭「……わりぃ」
美月「……まぁあんな彼だからこそ僕もまだ少しこの業界で頑張って見ようと思えたんですがね。
さて、と。まずはどこから電話をしようかな」