悠太:俺が芸能の世界に興味を持ったのは、親の影響というより5つ上の兄・豊の影響の方が強かったと思う。
天才子役として既にその業界ではそれなりに名前の知られていた兄貴を、俺は幼心にカッコいいと思ったもんだ。
悠太(五歳くらい・回想)
「俺、絶対いつか兄ちゃんみたいになるんだ。モデルも出来てー演技も出来てー歌もうたってさ。兄ちゃんは俺の目標なんだ」
悠太:そう無邪気に言った言葉に、何故か兄貴は少し悲しみを含んだ表情を見せる。
豊「別に僕みたいにならなくていいよ。悠太は悠太らしいくいなよ」
悠太:当時の俺はまだ何も知らない子供で、何で兄貴がそんな顔をしていたのか、何でそんな事を言ったのか理解出来なくて。
数年後、それを理解出来る様になった頃にはもう、俺は後戻りできない場所へと足をつけていたんだ。
SE(目覚し)
(少し遠目のIF)
豊「悠太ーっお前いい加減起きろよ!! 食器片付かないだろ!?」
悠太(寝惚け)
「……朝?」
SE(TV・食事をする音)
豊「ったく、たまに帰って来たと思ったら一日中寝て。暢気なもんだよね本当」
悠太「いいじゃんかー、昨日も朝から撮影で疲れてたんだって。醤油ちょうだい」
豊(醤油を渡す)
「ん」
悠太「昨日はバラエティーの生放送にトナミと出てたんだけどさ、もうつまんないのなんのって。司会は喋り下手だしさ、共演してたタレントとかも三流。出なきゃよかったなぁ〜」
豊「ふーん」
悠太「トナミともさ、ちょっと今喧嘩しちゃってんだよねー。だからなんつーかめっちゃやりにくかったから尚更つまんなかった」
豊「またお前がワガママでも言ったんだろ?」
悠太「はぁ? 違うし! あいつが勝手に怒ってるだけで別に俺はなんもしてない……と思う」
豊「ま、早く仲直りしちゃいなよ。毎日顔合わせる相手なんだし、喧嘩したままだとやりにくいだろ」
悠太「う……ん。わかってる」
豊(時計をみて
「っと、じゃあ僕学校に行くから。お皿ちゃんと流しにつけといてよね」
悠太「わかってるよ。〈ふと豊を呼び止め〉あ、なぁ兄貴」
豊「ん?」
悠太「最近リーダーと会ってんの?」
豊「蘭? そーいえば最近学校来てないなぁ。こないだ電話したら忙しいって言ってたし。なに、蘭とも喧嘩してるわけ?」
悠太(言葉を濁し)
「んー、まぁ、ちょっと。現場も別だし?」
豊「ったく、誰彼喧嘩売ってんじゃないよ。誰に似たんだその性格」
悠太(豊に頭を軽く叩かれ、唇をとがらせ)
「別に好きで売ったわけじゃないし〈ごにょごにょと〉」
豊「とにかく仲直りしなよ。行ってきます」
SE(ドア閉)
悠太「(学校にも行ってないんだあいつ……)」
悠太:リーダーが事務所に来なくなってから一週間たった━━。