貴文「あ? 何だお前ら外出てたのかよ」
樹(いきなり泣き出す)
「う〜〜……」
貴文「はっ? ちょっ、なんだどうしたんだ樹!?」
トナミ「あれ、帰ってきてたんだ二人とも。って、え、え!? 何、どーしたんだよ樹!?」
樹(泣きじゃくり)
「ら、にい……がっ、う、ひくっ」
トナミ「え? え!?」
シーナ「リーダー辞める」
トナミ「辞めるって、何が」
シーナ「SAGIN辞める。俳優も辞める。から、樹泣いた」
貴文「お前ら蘭に会ったのか?」
シーナ「会った」
トナミ「リーダーがSAGIN辞めるって……知ってたのか貴文」
貴文「いや、俺は何も……」
SE(ドア開閉)
美月「おや、おかえりなさい樹くんシーナくん。〈眉を潜め・貴文が樹を泣かせたと思い批難〉貴文さん?」
貴文「俺じゃねーよ! 美月、お前知ってたのか蘭が辞めるって。だから俺にあんな話……」
美月「あんな話? あぁ、悠太くんをSAGINのリーダーにって話ですか?」
トナミ「悠太をリーダー? 何だよそれ、俺知らないぞそんな話!」
美月「ええ、それはそうでしょう。だってまだ本人にも伝えていない話ですので」
トナミ「そんなの無理に決まってんじゃん。悠太が俺らのリーダー? 無理無理無理、俺絶対ヤダかんね!?」
美月「それは貴方にも言えることですよトナミくん。貴方はワガママな上放任主義すぎます。下の面倒を見られないんじゃ任せられませんからね」
トナミ「俺は一っ言もリーダーやりたいなんて言ったことないし思ってもないし! そりゃ、リーダーは自分勝手だし気ままだし歳上としての威厳皆無だけどさっ、でもそんなリーダーだったからデコボコのSAGINがうまく纏まってるんだって美月言ってたじゃねーか! だろ貴文!?」
貴文「そうだ。いくらなんでもその話は急すぎるぞ。俺は認めないからな美月」
美月「ではちゃんと段階を踏めばよいと」
貴文「そういう意味じゃなくて! とりあえず俺が蘭と話をする。それまで蘭が事務所辞めるって話も悠太をSAGINのリーダーに据えるって話も保留だ」
美月「それこそ無駄な時間だというのに。やる気のないタレントを構う程の余裕がどこにあるんですか。多額の借金、自ら仕事を得てこれるのはたった三人だけ。その仕事だって単価の安いものばかり。このままじゃ事務所の存続だって危ういと理解出来ていますか?」
貴文「じゃあ事務所なんてあいつらにくれてやりゃいいじゃねーか! 箱なんてなくったってな、こいつらがいてくれりゃどうにかなんだよ。タレントあっての事務所だ。タレントのいない事務所なんてただの飾りだろーが!」
美月(少し苛立ちを見せ)
「貴文さん」
貴文「社長命令だ! これ以上余計な事をこいつらの前で言うな!!」
美月「っ……。わかりました」
貴文「とりあえず俺は蘭の所に行ってくっから、お前らは仕事に行け。美月、頼むぞ」
美月(ため息混じりに)
「はい」
トナミ「樹、貴文がリーダーんとこ行ってくれるってさ。泣き止めよ、な?」
樹「……ごめんね、俺が皆に内緒で蘭兄ちゃんに会いに行ったからこんな」
トナミ「そんなの関係ないって! 樹はリーダーを心配してただけじゃん」
樹「ごめんね、シーナ」
シーナ「樹悪くない」
トナミ「さて、と、とりあえず。(少し声をあげて)悠太、ほんとにいい加減にしろよな。俺もう知んないからな」
樹「え?」
SE(走り去る足音)
美月「逃げましたね」
トナミ(舌打ち)
樹「え? うそ、いたの悠太くん!?」
シーナ「ずっと聞いてた、ドアのとこ」
樹「ちょっ、追いかけなきゃ!」
トナミ「いいって。ほっとけよ」
樹「で、でも」
トナミ「それよりも、さっきの本気? 美月」
美月「なにがです?」
トナミ「悠太をリーダーにって。俺本気で嫌だかんな。別に悠太が嫌いだからって訳じゃなくて」
美月「う〜ん、僕はいい案だと思うんですけど」
トナミ「どこがさ! 全然ダメダメじゃん。年のせいで判断が鈍ってんじゃないの?」
美月「だって彼みたいな利かん坊のクソガキを躾るには頭を撫でて飴玉をちらつかせるより、千尋の谷に蹴り落とす方が早いと過去の経験上思うんですよねぇ」
樹「え……?」
シーナ「せんじんのたに?」
美月「昔からバカにつける薬はないと言うように、ワガママな奴に優しくする必要はないと言う諺がありましてね」
樹「そう、なの?」
トナミ(怪訝に)
「初耳だけど……」
美月「一つのチームをまとめると言うことがどれ程の物か、彼にも体験してもらおうと思ったんです。蘭くんがどれ程貴方達を大切にしていたか、同じ立場に立てばわかるだろうとね」
樹「どういう事?」
美月「それは……〈ちろりと腕時計を確かめ〉あぁ、もうこんな時間だ。さ、お話はこれで終わり。現場に向かいますよ、準備をお願いします」
シーナ「悠太、いない」
美月「彼は後程自分で現場まで来るように申し付けます。さ、早く早く」
樹「はーい」
美月「あぁトナミくん」
トナミ「へ?」
美月「今日僕は君達を送り届けたあとレコード会社の方と商談のお約束をしているので現場を離れないとなりません。撮影が終わったら必ず皆で集まって現場を出るように。決して別行動をしてはいけませんよ。特に悠太くんと樹くんの傍から離れないように。いいですね」
トナミ(首を傾げながら)
「? う、うんわかった」
美月「さ、行きますよ。車に乗って下さい」