登場人物

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スタッフ入り口
貴文「って言ったものの……」

se(紙を捲る音)

貴文「なかなか高時給なバイトってないんだよなぁ……。しかも、年末とかって時期的にも微妙だし」

se(紙を捲る音)

貴文「お、これいんじゃないか? 時給2000円、お客様にお酒を提供して楽しく会話をするだけ。ときたまダンスを踊ってもらいますが簡単なものです。……ダンス? 面接受付はキャサリンまで。オカマバーキャサリ……ン……却下。
 おっ、こっちは時給3000円!? 何々? 新規オープンにつきニューフェイス募集。女性のお客さまを優しくエスコート。派閥なし、皆スタートが一緒だから? 面倒な派閥争いがないから働きやすい……ってホストかよ!! ……でも時給3000円か」

海都「この店はやめとけよ。この大本会社の系列は後々面倒くさい」

貴文「えーそうなのか? 面倒なのは嫌だな……って海都先輩ぃぃぃい!?」

海都「よぉ。何バーガーショップで百面相なんかしてんだお前」

貴文(開いた求人雑誌を隠しながら)「いやっ、別にっ、何も!」

海都「ふーん」

se(椅子に座る音)

海都「で?」

貴文「へ?」

海都「何でバイト探しなんかしてんだ。しかも時給のいいナイトワークのページなんか見てよ」

貴文「ああ、いや、別に、ただ今どきのアルバイトの時給っていくらぐらいすんのかなぁって。ほ、ほら俺今までバイトなんかした事ないからただの興味本意ッスよ。あは、あははは」

海都「へぇ、興味本意ねぇ?」

貴文(怖がり)
「(睨んでる睨んでるんだけどこの人ぉ〜っ)そ、そうそう興味本意ッス興味本意!」

海都「……いくらだ?」

貴文「えっ?」

海都「いくら足りないんだ。貸してやるから言え。どうせ返済金が間に合わないんだろーが」

貴文「いや、別にそう言う訳じゃ……まぁ半分はそうだけど海都先輩に頼る程じゃないッス。ありがとうございます」

海都「じゃあ何だ?」

貴文「……俺あいつらに頼ってばっかで自分じゃ何もしてなかったなって、思って。あいつらには体張ってまで稼いでもらってんのに俺はただ電話番みたいなちっちゃい事しかしてなくて。自分の親が作った借金なのに殆どあいつらに支払ってもらってるみたいになってるから何か居たたまれなくて」

海都「それは……あいつらが好きにやってる事だろうが」

貴文「そりゃ芸能人としての仕事はそうかもしんないけど、借金の返済は元々あいつらには関係ない事ですし」

海都「別にあいつらが自分の給料から払ってるわけじゃないんだろ。だったら気にすることかよ」

貴文「けどそれでもあいつらが売り上げてくれた金には代わりないし。あいつらが体張って稼いでくれた金で……」

海都「……おい貴文」

貴文「は、はい?」

海都「お前何を言われた?」

貴文「え?」

海都「誰に何を言われた、言え。美月かSAGINの連中か……誰だ」

貴文「べっ、別に何も」

海都「嘘つけ」

貴文「嘘じゃないッスよ!」

海都「じゃあなんでお前そんな泣きそうな顔してんだ」

貴文「……え」

海都「そんな今にも泣きそうな顔しといて何もないなんて話が通じると思ってんのか。誰だ言え、俺がぶんなぐってやる」

貴文「何言ってんスか! 本当に何も……ない……」

海都「貴文」

貴文(貴文泣き始め)
「っ……俺、俺自分が情けなくてっ……何も、知らなくてっ……それが情けなくて……」

海都「何がだ?」

貴文「あいつらが……悠太が、本当に体張ってまで稼いでくれてた事。俺確かに協力してくれって、言った。だけど……だけど、自分の体傷つけてまで協力してもらいたくなんか、ない……っ」

海都(言ってる事を把握して)
「美月の野郎、二度とさせんなってあれ程」

貴文「先輩は知ってたんスか?」

海都「まぁ、な。元々女形って生業自体それとは切っても切れない職業だから。昭和後期になってからはそうでもないが、中には勘違いしたバカ野郎がまだいるもんだ。その繋がりで噂が耳に届く事もある」

貴文「俺、そんなん知らなくて。なのに協力してくれって、頑張ってくれってあいつらに言ってて。それが、そんな自分が腹ただしくて……」

海都「それはお前のせいじゃねーだろうが。管理を怠った美月が悪い」

貴文「だけど! だけど最終的な判断は社長である俺の仕事で。俺がダメだって一言いや美月だって」

海都「業界を何も知らないままなし崩しに社長をやらざるを得なくなったお前に何の責任があるってんだ。お前は悪くない」

貴文「けど」

海都「しつこい、強制的に黙らされたいか?」

貴文「っ……すんません」

海都(軽く溜め息をついて)
「いや、俺も同罪だな。関係ねーって関心をもたなかった。トナミには鈴兄貴が目を光らせてたし、シーナと樹は親父が何かしら手を回していた筈だ。けど悠太と蘭には何もしていない。あのババアがやり兼ねない事は知っていたのに……だ」

貴文「そんな、海都先輩には何も……」

海都「けどそのせいでお前を泣かしちまっただろ。ごめんな」

貴文「っ何言ってんスか! これは海都先輩のせいじゃないじゃないスか」

海都「……お前はどうしたい?」

貴文「どうしたい……て?」

海都「お前が望むんなら裏で色々手を回してやる。俺にもそれなりに力はあると自負してる。けどそれはお前が望むならだ。俺にはあいつらがどうなろうと関係ないからな」

貴文「海都先輩に迷惑かける訳には……」

海都「迷惑かどうかは俺が決める。今はお前がどうしたいかを聞いてんだよ」

貴文「(俺がどうしたいか……?)俺……は……」










女「じゃあね、今日は楽しかったわ悠太。いきなり呼び出してごめんなさい」

悠太「そんな事ないない、俺も楽しかったよ梨佳さん」

女「次のパーティー、悠太も遊びに来ていいかお父さんにも聞いておくからそのつもりでいて」

悠太「え、ほんとに呼んでくれるの? やった! だったら是非是非梨佳さんをエスコートする役目は俺にお願いしてほしいなぁ」

女「ふふ、あと身長が10cm伸びたらね」

悠太「どーせ梨佳さんよりチビですよーっだ」

女「じゃあおやすみ」

悠太「おやすみ〜」

SE(車が走り去る音)

悠太(鼻歌)

蘭「よぉ」

悠太(驚き)
「なっ……にしてんのさ」

蘭「あれ橋田梨佳だろ。市議会員の娘の」

悠太「そうだけど。だからなに」

蘭「べっつにー。あいかーらずお盛んだなぁってよ、ガキのくせに」

悠太「そんなんあんたに言われる筋合いないんだけど。それに俺、あんたと違っておっさん相手に腰ふる趣味ないんだよね。やっぱ喰われるなら可愛〜い女の子じゃなきゃ」

蘭「今日貴文に全部話した」

悠太「話した? 何を」

蘭「枕やってた事」

悠太「……っバカじゃねーの!? 何勝手な事してんだよ!?」

蘭「遅かれ早かれバレてた事だ。他人からバレるよりこっちから言った方が後腐れないと思ってよ」

悠太「そーゆう問題じゃないんだよ! バカだバカだ思ってたけどここまでバカだったなんて……っ。しゃちょーには関係ないだろうが!!」

蘭「なぁ、もうやめよーぜこんな事。自分傷つけてさ、いくら好きなことをするためだって間違ってると思うんだ」

悠太「はっ。何を今さらいい子ぶっちゃってんの、バカじゃね? やめたとこでどうなんのさ。やめてあんたみたいに干されるなんて俺はごめんだね」

蘭「Meeting事務所に移籍したのもそんなんが嫌だったからじゃなかったのかよ。もう親の言うがまま体売ってまで仕事やりたくなかったから移ったんじゃなかったのかよ?」

悠太「違う! 確かにあいつらのゆう通りに動くのは癪に触ってたけどでもこれは俺が自分で望んでやってた事だ。だって俺セックス好きだし。気持ちいい事されるのもしてあげるのもだぁいすきだし!」

蘭「……意地っ張り」

悠太「……はぁ? 誰がだよ」

蘭「お前、豊にそっくりだよな。そうやって意地はってさ、嫌なことも嫌じゃないって言い切って自分だけ傷つけばいいって殻にこもってさ。そうすれば誰かを守れるって勘違いしてんだ、自分が我慢すりゃ大切な奴を守れるって。そんなん勘違いなんだよ」

悠太「意味わかんないね! 俺が、いつ、誰を守りたいって言ったんだ、妄想してんじゃねーよきっしょ!!」

蘭「豊もそうだった。誰かの為に……仕事が来れば母親が、父親が喜んでくれる。だから風邪引いて苦しいときも、泣きたいときも笑えるんだって。それが例え自分の体を汚すことだったとしても我慢できるんだって。親が自分に笑顔を向けてくれた、ただそれだけで必要としてもらえてるって思えるんだって
 お前だって、同じじゃねぇか。貴文がお前を必要としてくれた、力を貸してくれって頼ってくれたのが嬉しかったからだろ? だからこんな真似……」

悠太「違うっ、違う! 違う!! 俺は自分の為にやってるんだしゃちょーは関係ない!!」

蘭「でも貴文は傷付いてた」

悠太「……っ」

蘭「俺らがそんな事してたって知った時、あいつ傷付いてたぜ。美月が俺を買ったって話した途端にあいつ事務所に怒鳴り込んでさ、美月の奴に一発お見舞いしてやんの。まぁそれは一部誤解だって事で話は終わったんだけどさ」

★(少し間を挟んで)

蘭「結局さ。結局そうなんだって。自分を傷付けても守ろうとすりゃした分だけ相手は傷つくんだ。ただ笑顔が見たかっただけ。ただそれだけなのに結局は泣かしちまうんだよ。お前はどうなんだよ、貴文を泣かしてまで続けたいのか? こんな事」

悠太「……ゃ……じゃあどうしろってのさ。金貸してやるって言ってもいらないって言われるし、仕事いっぱいとってくれば一人で無理するな休めって言われる。自分は朝から晩まで丸一週間走り回って休んでもないくせに!」

EF(回想)

貴文『お前さー最近無理しすぎじゃないか? 何だよこのスケジュール』

悠太『え〜別に普通じゃん。なんかおかしい?』

貴文『おかしいだろ! 朝は10時から夜は21時まで撮影・撮影・撮影って……学校はいつ行くんだよ』

悠太『あー大丈夫だって、出席日数足りなくてもテストで点とれば留年しない約束だから』

貴文『じゃなくて、勉強以外にもあるだろ? ほら、友達に会いにいくとかさ』

悠太『友達ぃ〜? そんなのはなっからいないよ。だって俺一年に10日以上登校した事ないもん』

貴文『それは前の事務所での話だろうが。うちじゃそんなの許しません。ちゃんと学校行け、とりあえず今週は仕方ないとしても来週から。美月に調整してもらうから』

悠太『はぁ? 余計な事すんなっての。大体今月まだ返済金足りてないって言ってたじゃんか。仕事減らしたら収入も減るんだぜ、わかってんのしゃちょー?』

貴文『それは俺が心配することであってタレントのお前らが心配することじゃなーいーの! お前らは楽しく仕事してくれればそれでいいんだって』

悠太『ちゃんと楽しんでるけど……』

貴文『あのさぁ。確かに俺は協力してくれって言ったぞ。一人じゃ二億なんて借金返せないって。でもそれは手伝ってくれってだけでお前らの人生台無しにしてまで力を貸してくれって意味じゃないの。
 ちゃんと学校にいって友達つくって、まぁ好きな子なんかも作ったりなんかして? そーゆーのはちゃんと経験しといてほしいわけよ。特に今まで出来なかったんなら今がそれを経験するチャンスなんじゃん。
 そんな時間をこっちの手前勝手な理由で無駄にしてほしくないんだよ』

悠太『そんなの、自分だって行ってないくせによくゆーぜ』

貴文『俺はいーの。どうせ既に出席日数足りなくてダブリン坊決定してんし。だけどお前はダメ。義務教育はちゃんと行けってんだよ。わかったか?』

悠太(口を尖らしながら)
『わったよ、ったく……』

EF(回想終わり)



悠太「数をこなしてやりすぎだって言われるなら、一つがでかい仕事やるっきゃないじゃん! 他の奴らみたいにちっちゃい仕事ちまちま時間かけてするより大きな仕事を多くこなした方が実入りだっていいし借金だって早く返せる。俺はその仕事を獲る事が出来るんだ。やり方がどうだろうとそんなの知らない、それがどんな汚いやり方で獲た仕事だってそれが貴文の為になるんだったらやるっきゃないんだ!!
 だって頼むって言われたんだ助けてくれって言われたんだ。親父もお袋も事務所の奴らだって俺にそんな事一度だって言ってくれなかった期待さえしてくれなかったのに、だけど貴文は俺に期待してくれたんだ!! 俺はそれに応えたい。その期待に応えたい!! 途中でほっぽりだして逃げたあんたなんかに説教垂れられる筋合いなんかないんだよ!!」

SE(走り去る・悠太Fout)

蘭「……バカ野郎が」

美月「お話は終わりましたか?」

蘭「……思った通り突っぱねられた。まっ、あいつがこんなんで言うこと聞かないことくらいわかってたけどよ」

美月「そうですねぇ。彼の場合あの高すぎるプライドがたまに邪魔だったりするんですよね。僕としてはもう少し柔らかくなって頂きたいんですが……」

蘭「無理だろーあんだけ偏ってちゃ。人間性格改変が一番難しいってゆーしな」

美月「今の彼に必要なのはお小言でもましてや共感でもないんでしょう。ただ、心から制止をかけれる人間の存在……」

蘭(からかう)
「俺でいうお前みたいな?」

美月「おや、そんな事言ってるとまた豊くんに睨まれてしまいますよ?」

蘭「だぁいじょぶだって、俺とあいつは心からラブラブだしぃ?」

美月「ホモのノロケ程うざったいものはないですね」

蘭「ひでっ」

美月(ふふ、と笑って)
「さ、帰りましょうか。あまりこの寒空の中実さんを車で待たせるのは申し訳ないですし」

蘭「あ〜世の中はクリスマスだって賑わってるっつーのに何やってんだろうな俺ら」

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